ことばあそび!
 
 
 
 
 
 

 
 
 
「泣かないで」

声にならない思念は彼女に届いたのだろうか。
ゆっくりと面を上げたその目にには宝石が散りばめられているようだった。まるでルビーのような。それこそが彼女の悲しみに或いは怒りに明け暮れる感情の洪水の原因だった。
小さな手でまるで恥ずかしいものを隠すかのように涙を拭いた。その行為さえ強がっているかのように思えた。彼女の手はまだこんなにも小さいのに。掬いきれないそれを拭いてやると、その眩い目で躊躇うことなくこちらを見つめた。
 
 
 

 
 
 
目を閉じてからだ中で感じてみる。やさしさに溢れるような悲しみに縋るような微弱な声を。目を瞑るかぎりいつまでも私は溺れる。至福となりつつあるこの流れに永遠に身を任せることができたなら、などと考える時間さえ勿体無かった。この一瞬でさえ愛しい。 
 
 
砂糖漬けの声  
   
 
 

 
 
 
ひろがる世界。
青の眩暈。映る雲と水の流れ。
誘う赤。甘い香りと虫の音楽。
白の調和。ゆらゆら揺らめく未来のいろ。
季節の芽吹くとき!
 
 
 

 
 
 
くすり、と笑った彼の振動が私の肩から伝わってきます。 その震えはこそばいながらも嬉しい。 それは彼がめったに見せない笑顔を私の前ではさらけ出してくれているからなのでしょう。  
 
 

 
 
 
おおきなおおきな瞳きれいで澄んでいてあおいあおい。(けれども今の彼の目はもう私を映してはいないんだ)悲しいけど寂しいけどどうしようもないそれよりも、瞳が曇っているのはやっぱり私のせいなのだろうか。もしそうであるのならという可能性を捨て切れない私はどうしようもなく浅はかで醜くい。
(だからこそのお別れなのだとしたら、)
ポタポタとアスファルトに波紋を作っていた私の涙はいつのまにか彼の手に収められていた。ねぇどうしてそんなに優しいのかなあ
(きみは残酷の意味を知っている?)  
 
 

 
 
 
例えばいまここで差し伸べられた手が 本当に敵意のない無垢で偽善と紙一重の慈悲に満ち溢れたものだったとしても (僕はまた傷つけてしまうんだろうね)  
 
 

 
 
 
吐き気がする。 止まらない止まらない止まらない。 いつになったら終わるんだろうか。 血の味は覚えたけれど 私の胃はまだ受けつけないらしい。 諦め悪い。 諦めが悪い?
 
  ああピリオドを打つのはだれ!  
 
 

 
 
 
君が沁み込んでこのまま消えない気がした。 あまいあかいあおいあわい君のにおいに魅せられてきっと僕はとり憑かれているんだろう。 (ぼくをつくるすべての細胞が君を求めてる、)  
 
 

 
 
 
しかたがないんだ
   

ひどいひどいひどい。なんてひどいことをするんだろう! わたしがもしも貴方だったならこんなやつ大嫌いだ嫌い嫌い嫌い。 とても悲しいけど苦しいけどそれは結局自分かわいさ故だ。 こんなにんげん消えちゃえばいいとまでは思わなくても (貴方はは優しいから、きっと、そんな風に思いさえしないんだろう、けれど、) 困った顔で笑うんだろうね。嗚呼ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

わたしなんかの気持ちを受け取ることで困らせるなんて一番わたしが望んでいなかったこと、ねえそんな顔しないで。 (わたし我儘ばっかりで御免ね) 大好きでごめんねでもとっても苦しいよ。 きっとこれが私への罰なのだろうか。ねえそれなら、

(甘んじて受けるからどうぞ、笑って!)
 
 
 

 
 
 
私が一番自分を好きになれるのは深い眠りから気持ちよく覚めたときだ。 疲れを忘れて何もかもを忘れてしかもスッキリとした気持ちに包まれたとき、からっぽの思考の片隅でこっそりと思う。 (この瞬間ばかりはわたしはよごれていない)  
 
 

 
 
 
白い白い手だった。  
 
それは僕みたいな病的なものじゃなくて、透き通るような綺麗さとでも形容するのだろうか。 彼女が「またね」とその綺麗な手を振ると、 僕はまた会えるのだろうかという不安とそれまでの長い時間を思って消失感に虚無を見つめ、 「また来たよ」と微笑んでくれると嬉しさと開かない口への不満とで悩ませられた。  
 
魔法の、手だ。  
 
僕はまだ動けない。 
 
 
 

 
 
 
誰かに止めて欲しいと願うたびに動く僕の心を、願うことだけは自由だ。 
これを希望というのならあまりに絶望に近いと思った。だからもし君が僕の名前を呼んでくれたならそれこそ、 
   
  (奇蹟という概念を僕は信じれるのか?)  
   
 
 

 
 
 
とても気分が良かった。最近ひどく悩まされていた睡魔がないというだけで、こんなにも軽いものなんだろうかというくらいに。ジェットコースターに乗った後のような浮遊感にも似ている、このふわふわとした空気の中とても足取り軽く、私は廊下進んだ。気持ちというものはなんて容易いものなんだろう。  
 
不透明な白い扉が私の前に立ち塞がっている。いつもは簡単なようで重いその取っ手に左手をかけて思いっきり引いた。新設された校舎故か扉はいとも軽く簡単に開く。そのまま勢いで足を踏み入れて、射した目の前の影に慌てて体をそらす。  
 
逸らしながらに「ごめん、」と声をかけると同時に私の声は打ち消された。  
 
「おはよー!」  
 
陽気で気さくな心地よい声を受けて、それでも声の主を判断した驚きを隠せずに顔を見ると眩しさに思わず暖かさを感じた。(ねえ、ちっぽけな私でも覚えてくれていたそれだけで、)  
 
おはよう、と声にならずに私の中に落ちた言葉は暖かさに溶けてまた私を生かす。 
 
 
 

 
 
 
きっとこれは怠惰なお話の続きなのだ。目の前にある光景を否定して必死に耐えた。きっといつかは終わる。そうしてまた胸に小さな染みを作り皺を作り嘘をすり込んでどす黒い穴を埋めていくしかないのだろう。嗚ゝ何処まで醜いのか  
 
いっそ燃やしてしまいたいような破り捨ててしまいたいような噛み付きたいようなそんな息の詰まることを考えては結局はすべて言葉に出来ずに成りかけの単語を呑み込むしかない。嘲笑した涙で洗い流すことが出来たならどれだけ報われるんだろう   
 
すべて呑み込んだ末に心に決めた誓いだけは守れると信じた  
   
 
 

 
 
 
まとわりつくようなこの闇を払って突き進むそこに何があるのか。それは僕の望む答え?希望?真実? 邪険に扱ってもそれは意に介さない風にじゃれあってくる。なんとも愚かで…哀しい。 
 
「ねえ、逃げないで」 
 
いっそ泣き喚いてくれる方が楽なのに。予想に反して大人しい闇は僕を一層突き落としていく。明るさを求めようとは思わないが此処にもせめてもの暖かさがあったなら、僕の心は潤ったのだろうか。嗚ゝ声が欲しい  
 
ねえ どうか僕を呼んで 
 
 
 

 
 
 
「なげうって飛び捨てた言葉をつなぎ合わせたら真実に近づくとでも?」 
「どうして、」 
「いつまでも僕は君に近づけない」 
「どうして、」 
「答えが欲しい」 
「どうして、」 
「君が好きだから」 
「どうして、」 
 
私は此処にいるのに